活動報告
「大学の明日を考える会」NPO法人設立記念講演会レポート
2011年11月25日(金)14時30分より、JAビルカンファレンスセンターにおいて、大学の明日を考える会のNPO法人化を記念して、講演会を開催しました。
講演会の内容は次のとおりです。
1.主催者挨拶 理事長 大橋 光博
2.来賓ご挨拶 渕村 剛司 氏
文部科学省 高等教育局 私学部参事官付
私学経営支援企画室 室長補佐
3.講演「日本の大学と国際教養大学の挑戦」
中嶋 嶺雄 氏
国際教養大学理事長・学長 国際社会学者
4.講演「大学の教育現場からの改革
―ブランド力向上のデザインマネジメント―」
岩倉 信弥 氏
多摩美術大学理事・教授 経営学博士 東京理科大MOT客員教授
本田技研工業株式会社・社友
大変ユニークな大学経営で有名な国際教養大学の理事長兼学長、中島嶺雄先生からは「日本の大学と国際教養大学の挑戦」という演題でご講演頂き、"本来、大学というのは、世の中に先駆けてグローバル化に対応する最も先進的な知の共同体でなければならない。それを達成するためには、教授会からの解放とカリキュラムの改革が最も重要である"といった強いメッセージを頂きました。
講演の主なポイントは以下のとおりです。
・ グローバル化というのは、この20年間に進んだ全く新しい歴史的な展開であった。国際化の概念が国と国との水平的概念だとすれば、グローバル化は立体的な概念といえるだろう。そのグローバル化が行われる一つの前提として、90年代に起きた社会主義世界体制の崩壊、そしてIT革命の進行があった。グローバル化が始まって現在まで20年しか経過していないが、これが日本のいわゆる「失われた20年」と対応していることを考えると、今日持つその言葉の意味が改めて大きくのしかかってくる。
・ 日本の大学の問題は、90年代、まさにグローバル化が始まった時に、それに逆行するような政策を行ったことに起因する。具体的には、大学設置基準の大綱化により、学部の段階で一番重要なリベラルアーツの教育が消失したこと、次に、大学院重点化に伴い学部教育の空洞化を招いてしまったことが指摘できる。
・ 教授会に拘束されている限り、大学は改革も発展もできない。合格認定や卒業認定など、教育法によって教授会を通す決まりになっている議題もあるが、国際教養大学の場合、これらについては事前に、代議制であるAAEC(教育研究会議)や入試委員会のあるアドミッションオフィスにて十分に議論し、教授会に詳細なリストを提出することになっている。そのため、教授会はわずか10~15分程度で終了する。
・ カリキュラムについても同様である。まずAAEC(教育研究会議)があって、そこを支える各部署、EAP、基盤教育、グローバルビジネス、グローバルスタディーズのディレクターが集まり、カリキュラムへの要望を出す。それを最終的に学長が承認した場合のみ、AAEC(教育研究会議)に提出するという仕組みになっている。また、教員の認定を教授会委員に任せている限り、カリキュラムの改革は難しいため、原則、教員の採用は公募で行っている。
・ カリキュラムの具体的内容については、アカデミックリーディングとスピーキングを重視した徹底的な英語教育を行っており、TOEFL500点クリアが次の基盤教育(リベラルアーツ)へ進む条件となっている。全ての学生が留学するカリキュラムになっているが、留学条件はTOEFL550点以上。同時に英語以外の外国語教育も重視している。また、社会科学人文科学の基礎だけではなく、芸術科目も重視している。最近は大学の難易度が高くなってきて、外国語系の中ではトップになった。難易度ランキング上位校として、または就職に本当に強い大学として雑誌などに取り上げられる機会も増えたが、それはあくまでもカリキュラムの結果であり、このような分野でトップになることを目指したわけではない。大学教育においては、自分達の初期の目標をしっかり定めて、同時に学生が勉強せざるを得ないような、学生が喜んで勉強するようなカリキュラム作りが必要なのである。
次に、多摩美術大学名誉教授である岩倉信弥先生からは、「大学の教育現場からの改革―ブランド力向上のデザインマネジメント―」というタイトルでご講演頂きました。岩倉先生は、本田技研工業にて、デザイナーのご出身ながら常務取締役にまでなられた方で、日本の自動車デザインの第一人者です。定年退職された後、多摩美術大学の教授にご転身され、同大学の生産デザイン学科の教育体制を改革しました。講演では、"学生は商品である。大学とは、よりよい材料を仕入れて加工し、付加価値をつけた上で、企業や社会に喜ばれる商品として送り出す場なのだ"といった、核心をついたメッセージを頂きました。
講演の主なポイントは以下のとおりです。
・ ホンダで35年間、デザイナーから商品担当役員まで担当し、厳しい現場含め様々な経験をしてきた。ホンダの原点は、「買って喜び、売って喜び、作って喜ぶ」。つまり、商品を中心にお客さんも作り手も皆が喜ぶ、それができない商品は作ってはいけない、ということにあったのではないかと思う。私ども商品を作る人間は、商品はお母さんのおにぎりのようなものだと思っている。心をこめて、どういう口の大きさか、手の大きさか、ありとあらゆることを考えながら、お客さんの喜ぶ顔を思い浮かべながらおにぎりを握る。それが商品作りの極みだと思う。
・ 多摩美では、教育者としてのスタンスを定めることから始め、まずは「教育は教育なり」という言葉を考えた。教育――エデュケーションという言葉はそもそも、エデュース、引っ張り出すという意味を含んでいる。学生から若いエネルギーや才能を引っ張り出してあげる、見つけてあげる、それによって我々も勉強できる、という考え方である。それから二つ目は、「学生は商品である」というスタンス。この言葉は当時大変物議をかもした。未だに納得してもらえない先生も沢山おられ、不遜であるという意見も多数受けたが、先ほども述べたように、商品は心をこめて握るものである。大学教育とは、よりよい材料を仕入れて加工し、付加価値をつけて、お客さん、すなわち企業や社会に喜んでもらう商品として作り上げる。その様な学生を社会に送り出す、不良品を出さないように努める、ということだ。
・ 多摩美に迎えられて最初に行ったのは、朝の挨拶を学生に徹底させることだった。まずは、学科に明るく前向きな雰囲気を作り出そうと考えたのである。次に、教授室の壁を取り払ってワンルームに改造し、学生が入ってきたらどこにでも行けるように作り替えた。そうすると、ある先生のところへは学生が列をなして相談に行く、ある先生のところへはまったく行かない、というような違いがわかるようになった。その結果、先生同士の間に刺激が生まれ、どのようにしたら学生が来るようになるのか、などと意見交換するようになった。先生同士の横のつながりを生み出したという点において、この大部屋は大変効果的だったといえる。
・また、学科の理念として独立性と先進性に重きを置くことにし、世界に通用する自立したプロダクトデザイナーを作るという目的から、「5か年計画」というものを作成した。この計画の最終的な目標は、倍率を下げないで定員を倍にすること。そのためにどのようなカリキュラムにするべきか、幅広く先生を確保するにはどうしたらよいか、という議論を毎日行った。
・ 「5か年計画」の目標を達成するために、カリキュラムを徹底的に見直した。世界に通用するデザイナーを作るには、1~4年の中で、どのような科目をいつ教えるのがいいか、先生一人一人に働きかけ、枠を固めていった。しかし、カリキュラムの組成だけを一生懸命行っても、外へ向けて発信していかなければ意味がないので、ブランディングを強化させるべく、科のロゴマークの制作、プロの展示会であるグッドデザイン賞への出展、メディア露出(テレビ番組『ガイアの夜明け』の出演等)、パンフレットの制作、予備校への働きかけを行った。ブランドというのは、「しるし」のことである。家畜の牛の焼き印にそのルーツがあるように、「ここにいる」といった強い意志を表明するものだ。強い意志の発信は戦いを生み、標的となる。あえてそれを目指す、すぐわかるようにする、ということにこだわってブランディングを行った。パンフレットの制作に関しては、当初、予算がおりず、写真・レイアウト・翻訳は学生の手作りで行った。それが理事長の目にとまり、次年以降は予算がついてその動きが全学部に波及していった。そのような活動のおかげで、2001年に30人だった学科が、4年後には45人になり、5年後という目標には少し間に合わなかったが、その1年後に見事60名を達成することができた。
・これからの課題としては、国際交流の拡大、異文化の相互批評の活発化を掲げている。学生には、クリティカルな状況に身を置き、何を言われてもどんどん自分の意見を返して、異質なものとの出会いの中から、新たな自分を獲得してほしいと考えている。
講演内容 以上
当日会場でご協力頂きましたアンケートによると、ワークショップ・実務研修の開催に関するご要望が数多く寄せられましたので、来年以降は、このような企画も取り入れて、勉強会・講演会の企画を行っていく予定です。詳細が決定次第、当ホームーページにてお知らせ頂きますので、是非とも皆様のご参加をお待ちしております。